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2006.03.06

耕司、ありがとう。

 週末だというのに、気が重かった。家に帰ってひとりになるのが嫌だった。いとこが亡くなった。29歳。自ら死を選ぶには早すぎる。彼の葬式が土曜日に行われるのだった。
 当日の朝、引っ張り出した礼服のポケットから、ちょうど1年前に出席した結婚式の式次第が出てきた。黒いネクタイを探しているうちに1本電車を乗りそこねてしまった。
 10年ぶりに親戚の家の敷居をまたぐ。叔母から、『耕司がみんなを引き合わせてくれた』と、歓迎を受けた。少し落ち着いている様子で安心した。
 いとこ連中はみな相変わらず明るくて、本当に葬式なのかわからないくらいだ。10年前の祖母の法事に来ているのとまったく同じ情景がある。ただ違うのは、その輪の中に、長男の耕司がいないだけだ。
 遺書らしきものは無かったらしい。机の上に『ありがとう』というメモがあっただけだったという。思い悩んだことがあったろうに、ひとり胸にしまい込んだまま逝ってしまった。彼らしい最期だといえばそれまでだが、何も相談にのってやれなかったことに悔いが残る。親戚一同、みな同じ思いだ。
 折しも耕司が命を断ったその日、彼の姉が初めての出産をした。そういえば、11年前の祖母が亡くなる数日前には私の甥が誕生している。逝くものがあれば、新たに生まれる命もある。暗い話ばかりではない。
 精神病にかかっていたいとこが、「少し太ったでしょ」と明るく話しかけてきた。もう以前のようなうつろな目をしていない。自分の病気のことも冷静に語り出した。あの頃のチビたちも、もう中学生だ。時は確実に流れている。
 耕司の法名は「釈耕温」。釈は釈迦、耕は名前の一部分、そして最後の一文字は人柄を表すという。まさに、優しい心を持った彼にふさわしい。
 また来てや。また来るわ。何気ない挨拶で親戚宅をあとにしたが、久しぶりにみんなの優しさに触れて心地良かった。耕司はみんなの胸の中に生き続ける。耕司、本当にありがとう。向こうでも婆さんの世話をよろしく頼む。

合掌

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